トポロジカル相転移点としてのKane fermionの普遍性
お疲れ様です、refuです。
某アドベントカレンダー[0]に便乗してKane fermionに関してreviewをしようかと思っていました......が、原著論文[1][2]を読むほうが結局分かりやすいため、ここでは記事を書かないことにしました。
Kane fermionを眺める上で「相対論的粒子に対応付く粒子ではない物質中でのみ発現する粒子」というキャッチ―な視点に囚われず、トポロジカル相転移の観点では案外当たり前のものである、という感覚を共有することを目的として、簡単にコメントを付けておきます。
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Kane fermionは文献[1]でのHgCdTe系での報告以来それなりに研究されているトポロジカル半金属 (中の準粒子の呼び名) です。
これはDirac coneの間にflat bandが挟まった3バンド系のトポロジカル半金属であり、相対論的粒子の対応物が存在しないことが特徴です。
Weyl fermionはトポロジーで、Dirac fermionは対称性で保護されていますが、Kane fermionはこれらの対称性に保護されておらず(時間反転対称性を持つのみ)、摂動に対して非常に弱い性質を持ちます。
これらのトポロジカル相が崩壊する具体的な条件は、Weyl fermionは対消滅、Dirac fermionはそれを保護している結晶対称性の破れ、そしてKane fermionは化学的組成変化、構造変化、時間反転対称性の破れなど諸々です。
HgCgTeはトポロジカルに自明な半導体と強烈なバンド反転を持つゼロギャップ半導体 (標語的には"負のギャップ"を持つ半導体) の混晶である事がKane fermionの形成上重要になっています。
HgTeでは1枚のバンドと2枚のバンドの多バンドでのバンド反転と、バンドギャップチューニングを両立し、多バンドでのトポロジカル相転移点を発現させている、というのがその実態ですね。
逆にこんなバンドギャップチューニングで実現できるトポロジカル相転移点がKane fermionなので案外当たり前なものだ、という気がしないでしょうか。
そんなことを言えば、Dirac fermionも空間反転対称性の下でのWTIとSTIの間のトポロジカル相転移点そのものですけどね。
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以上のように、トポロジカル相はトポロジカル相転移の枠組みで位置付けると案外すっと嵌ることが多々あると思うので、興味があれば勉強してみて下さい。
トポロジカル相で現れる物性の非自明さはさておいても、電子相としてのトポロジカル相が案外自然である事に関しては分かった気になれるはずです。
[0] Wathematica Advent Calender 2023
wathematica-adv-2023.vercel.app
[1] M. Orlita, D. M. Basko, M. S. Zhouludev, et al. Nat. Phys. 10, 233 (2014).
[2] F. Teppe, M. Marcinkiewicz, S. S. Krishtopenko, et al. Nat. Commun. 7, 12576 (2016).